この作品に登場する三人の女性達は、それぞれがむしり取られるような喪失感を背負って登場してくる。それはある時ふっとしたことでその存在が消えていないことに気づかされる。主人公は、大好きな祖母が死んで倒れているのを幼い時目撃してしまう。その時はその事が理解できず、かえって風邪をひかないようにと布団をかけてあげ、その場を離れてしまう。二人目の女性は、神戸大震災を経験する。その現場に居あわせた彼女は – 幻聴なのかもしれないが – 瓦礫の下から誰かが私に助けを求めていたと、聞こえない声に今でも苦しめられている。三人目の女性は、高校生から既にモデルとして活躍しているのだけれど、当時いらない風評にさらされたことがあり、動けなくなってしまった事がある。そして三人は神戸の大学で出会うのである。
■出版社
講談社
■著者
木村 紺
これは深い喪失感を背負った3人の女性が自らの手で「日常」を取り戻そうとするお話だと思っている。そのあまりにも丹念に日常生活を拾い上げ積み上げていく感じは、すがるような印象すら受ける。そして新たな「日常」を手に入れていくのだ。そうして手に入れた「日常」が全くどこにでもあるごく普通の日常であっても、それは断然自分が創りあげ手に入れたかけがえのない日常なのである。自ら望み、自ら行動し、その結果手に入れた日常なのである。
なんかものすごく重たい作品のような紹介をしましたが、本当はもっと明るく軽やかで叙情的な作品なんですよ、いや本当に。神戸という街でなんでもない日常生活を実に丹念に描いています。スクリーントーンを一切使わない作風とものすごくしっかりしている背景絵が印象的な無二の作品だと思います。改めて驚いたのはこの作品がデビュー作であるということ。作者にとってはどうしても描いておかないといけない作品だったんだなと思います。あと、カバー下の表紙も要チェックです!