「田舎暮らしはつらかった」

 スローライフという言葉が一時期流行っていましたね、そう言えば。今でもあるのかな? ロハスなんて単語もありましたね。農学部出身の自分としては興味のあるカテゴリなので面白そうな本や番組などはとりあえず見るようにはしていたのですが、どうにも私には同期できない内容ばかりだなーという感じを受けていました。なーんか、違うんですよね。TVや雑誌なんかを通してみていると、見ている方と見られている方の視線の先が違うようなイメージを受けるのです。実際田舎暮らしを紹介している雑誌などを手にとっていくつか読んでみたりもするのですが、そして素敵だなーと憧れてしまうのですが、でもどうにも同期できないのです。ウソくさいと言えば大げさですが、何か肝心なことがそこには欠落しているように感じるのです。そこに書かれていることは間違いなく事実なのでしょうが、そこに至るまでに一体何があったのかがスパッと切り捨てられてるように感じるのです。
 そんな時、今回の作品をこれまた偶然本屋で見かけました。最初はまた似たような作品が出版されていると思いスルーしていたのですが、テーマがスローライフであること・高知県出身の方が書いていること・舞台が高知であることから、思い直して買って帰りました。失礼ながらちょっと期待はずれでも「ま、いっか」なんて内心思いながら。
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■出版社
ロコモーションパブリッシング
■著者
渡辺 瑠海
■内容(Amazonより)
 憧れのスローライフとは言うけれど、1200万人都市・東京を離れ、突然人口密度100人の田舎に引越したオンナひとりと犬一匹。農道、昆虫、宝くじ、迫り来るカルチャーギャップの試練、また試練。土佐の高知を舞台に繰り広げられる『地方の時代』爆笑顛末記。
 でもね、この作品には私が読んでみたいと思っていた内容が大盛りでした。そう! 田舎で暮らすことは不便で大変で素敵なことなんじゃないんだ! 多種多様な虫と戦い、いつまでたっても時間どおりこないバスと人に諦念し、押し倒されそうな太陽のプレッシャーにも耐えなければいけない。また高知特有な話をすれば毎年大なり小なり台風が通過する。どんなに手塩にかけた畑があっても一日で全滅なんてことも経験しなくてはいけない。「下から雨が降る」という高知の夏の雨を経験しなければ、なぜ高知の道路の脇に排水溝がゴマンとあるのか理解できないだろうし、皆がサンダルを履くのかも理解できないだろう(最近はcrocsというオシャレなアイテムのおかげであまりお目にかからなくなったが)。なぜ他の作品はこの書いても書かなくてもどうでもいいことをスッパリ切り捨ててしまうのだろう? それこそが読んでみたい内容だというのに! 田舎暮しに対する憧れを現実というパワーショベルでもってバキバキに叩き潰され、憧れの田舎に住みながら実際には部屋のカーテンを締め切って外の景色が目に入らぬようにして仕事だけに没頭してしまうという矛盾する行為をとってしまう程追い詰められる作者がとてもかわいらしくてしかたがありません。作者曰く「田舎不適応期」の悶々とした葛藤が次々と綴られ、田舎暮らしに適応しようとするその苦悩が存分に書かれています。いやー、久々に読んでいて気持ちいい作品でした。

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