空はそのイメージそのままにスコーンとぬけた空色一色になっていた。でも5月のそれは夏と比べればまだ淡いスカイブルー( LightSkyBlue [#87CEFA]. 夏に近づくにつれて濃くなっていくのだ。SkyBlue [#87CEEB]. < DeepSkyBlue [#00BFFF].)。ああ、また夏が始まるんだとこの幼い印象の空をみるといつも思う。そんな素敵な日曜日に、なぜ私は朝もはやくから地元の青空市にきているのだろうか(この街では毎週日曜日に開かれる)。もちろん発案者は隣ですでに興奮状態になっている夕夏である。青空市と言えば聞こえはいいけど、主に並んでいるのは地元で採れた季節の野菜や果物、手作りの工芸品だったり加工食品だったり(こんにゃくとかゆずドリンクとか)。とにかく私からすれば幼い頃から見知った商品ばかりが並んでおり、面白くもなんともないのだけどな。・・・せっかくの日曜日なのになあ。夕夏を横目でみながら小さくため息をついてしまう。
私の街のお城は街のほぼ中央に存在している。その正門前からすこし離れた場所が今回のスタート地点なのだ。そしてそこから実に1.3kmに渡って東へ東へと一列に店が並んでいく。ここからの眺めはいつ見ても気持ちいいと思う。一軒一軒のお店は立ち上がって手を延ばせば端から端まで届きそうな限られた狭い空間だけど、それらが絶え間なく延々と一列に並んでいく。興奮状態の彼女を横目で見ながら、私もここにくるのはじつに何年ぶりだろうと思い出していた。夕夏はとにかく目に入るものすべてが面白いみたいで、ちっちゃい子供が目に写ったものをとにかく口にするようなものだった。微笑ましいといえば言えなくもないけど、終わりのない質問ぜめに思わずため息が出てしまう。
ところでニッキ水はないのだろうか? 夕夏の質問に答えながらも視界の片隅でニッキ水を探してみる。もしあればあれだけは買って帰ろうと決めていた。
「ちょっと、花衣、アンパンマンのあんぱんがあるよ。」
「うん、わりとよく見かけるよね。あのキャラクターはキリストを表現しているんですって。あ、パンなら帽子パンとかも美味しいんだけどね。」
幼い私の記憶の中で青空市での思い出として強烈に覚えている物がニッキ水なのだ。そもそもひょうたんの形をしたガラス容器に入っているニッキ水自体がスーパーとかコンビニでお目にかかれる商品ではないので、青空市で初めて出会ったその華やかな赤や緑や黄色の色彩の液体に幼い私は猛烈に惹かれたことを覚えている。
「何よ、帽子パンってさ。」
「あれ? 知らない? じゃあ、紙パックのリープルとかも知らない?」
なかでも赤色のニッキ水が私は欲しくて仕方がなかった。今となってはなぜなのかは思い出せないけど、あれはきっと甘いジュースに違いないと思い込んでいた。シロップと混同していたのかもしれない。シロップは甘すぎるけど、それよりはずっとさっぱりしているにちがいないと思い込んでいた。ねだってねだって買ってもらったニッキ水のふたを開けてもらった私はそれを一気飲みしてしまってとんでもないことになったことを思い出す。あの味は、ないよね、やっぱり。幼稚園児には危険だと思う。
「知らない・・・。あ、あと田舎寿司ってあるんだけど、あれってなに? こんにゃくとかタケノコとか。普通、酢飯に海産物じゃないの? お寿司ってさ。」
「こっちは山が多いからね。身近な山菜と酢飯の組み合わせだってあっていいんじゃない?」
それでもカラになったひょうたん形のガラス容器を私は手放そうとはせず、お茶をいれて水筒がわりに使っていたように思う。もちろんニッキ水のあの華やかなイメージとは程遠くて内心がっかりしながらもそれを飽きることなく使っていたように思う。
「・・・うん? どうかしたの?」
「いや、花衣って何でも知ってるんだね、って思ってさ。」
「あの、私、地元民なんですけど・・・」