6月:お城の図書館(1/3)

 「また雨をみてるの?」
 夕夏が参考書片手に声をかけてくる。予備校で行われる模擬試験にむけてお城の敷地内にある図書館で勉強会を夕夏と開いている。この図書館の2階には天井の高い閲覧室があり、その大きなガラス窓から外の光がぼおっとさしこんでくる。私はその窓際の席に座って外をぼーっと眺めている。どこをみているわけではない。いつも見慣れた街の風景に雨が降っているのをみているだけなのだ。
 「何がおもしろいのやら・・・」
 夕夏はそういってまた参考書に目をおとした。
 本当だね。なんなのかな。なぜ私は雨の日が好きなのだろう。
 でもね、雨はいいのよ。雨だって色々な表情や個性があって見てても飽きないし、自然と深呼吸してリラックスできる気がするのだ。でも、そろそろ、勉強の続きをしましょうかね。
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 夕夏は世界史に英語が得意。私は理科全般(中でも化学)と国語が得意だ。二人とも苦手なのは数学だ。まったく分散だ相関だ標準偏差だsinだcosだπだθだ座標だベクトルだ etcetc・・・ もおおおおおおおおお! わかんないっての! 人間、足し算と引き算と掛け算ができれば生きていけるのよ! はあ・・・バカな事いってないで勉強しようっと。それに私は英語も苦手で、こちらはほとんど壊滅的である。夕夏が英語が得意でほんと助かっている。彼女曰く、生まれた時から周りに外国の方がいたので自然と英語は聞き取れるのだそうだ。彼女の生まれた街は日本の五大国際貿易港の一つなのだ。小さい頃から色んな国の人と接する事も多かったので、日本史よりも世界史の方に興味がわくそうだ。そんな夕夏の経験したリアルでちょっとしたエピソードと一緒に英語や世界史を教えてもらっていると、なぜかすんなりと頭に入っていくのはどうした事なのだろう。とにかく夕夏様には頭が上がりません。
 午前中から降りはじめた小雨が少しばかり強くなったみたいだった。今まで聞こえなかった雨音が時々聞こえてくる。風はほとんど吹いていなくて、今日はほんとに静かな雨の日だと思った。
 私の街は全国的にみても降水量が上位にあるけども日照時間も上位にあるというちょっと変わったところのある街なのだ。それは、晴れる時はとことん晴れるけど一度降りはじめるとこちらもとことん降る、という気候だからなのだ。特に夏の激しく降る雨は”下から雨が降る”と言われるほど強い時がある。ゲリラ豪雨という言葉が最近ニュースで聞くようになったけど、あれ? ひょっとしてそういう雨の降りかたって珍しいの? ニュースになるぐらいなんだって最近思うようになった。ま、どっちにしてもゲリラ豪雨って、いささか粗っぽい響きじゃないだろうか。いや実際荒っぽいのだけど、だからこそ優雅な名前をつけるぐらいの遊びがないもんだろうか、と思ったりする。ま、そんな夏の雨も好きだけどね。ちょうど今時分の梅雨入り前後に降る”風もなく音もない”静かな雨も好きだ。
 ひょっとしてヒトの気配が希薄になるのがいいのかもしれない。確かにこの街にはまるで私一人しかいないかのような気分にさせてくれる。でも、ちょっと、それだと私が単なるヒト嫌いみたいに聞こえてしまうな。うーん、それよりは知らない土地にやってきたバックパッカーの気分かな? いつも見慣れた風景を違った目で見せてくれる。何気ない日常を非日常化してくれるちょっとした小道具、ってのはどうだろうか? だとすると、私ってかなり安上がりにできてるってことだよね。雨が降るたびに旅行しているような気になるのだから。さて、と。バカな事いってないで、ほんと、数学をどうしたものだろうか。
(蛇足:数学を一つのストーリーとして捉えるのなら 岩波文庫の 遠山 啓著「数学入門」  (1959年出版)がおすすめです。数学の見方が変わるかも。)

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