5月:閑話休題

 「最近、朝倉さんは、一宮(いちのみや)さんと仲がいいんだね。」
 最初はあまり気にしていなかったけど、こう何度もいろんな人に言われると、逆にムッとしてしまう。花衣(かえ)と仲がよければ一体なんだというんだ、ってね。・・・とはいえ、彼女らも悪気があって言っているのでないことは私にもわかる。教えてくれてるだけなのだ。あの子はちょっと変わってるからね、って。さてと、どうしたものかな。確かに花衣にだって非はあると思う。容姿が整っているだけに無表情でいられるとかえって怖い感じがする。お人形さんが急に怖く感じるのににてるのかな? しかも全然しゃべらないし。独り言を言わないのがまだ救いかなあ。私には結構普通に話してくれてる方だとは思うけど、それでも話しかけてもただジッと見つめられるだけのこともあった。確かに彼女独特の雰囲気があるのよね。うーん、どうしたものかな。笑うとほんとに可愛いんだけどねー。にっこり微笑むだけでも印象が全然違うんだろうけどなー。ほんと、どうしたものかな。
 彼女の名前は一宮花衣(いちのみやかえ)。
 初めて彼女に出会った時、なんて可愛い子なんだろうと思った。まずは、ちっちゃい。150cmもないんではないだろうか。でも色白の顔や腕・足のパーツパーツも細いから実際より大きな印象を受ける。バランスがいいんだな、きっと。それに手入れの行き届いた長い黒髪と黒目がちな瞳が小動物的な印象をさらに強調していた。自分が女性としてはデカイ方だからだろうか、こんな生き物に目の前をちょこまかと動かれるとたまらない。可愛すぎるっつーの。・・・でも彼女の唇はいつもしっかりと一文字に閉じられたままなのだ。うまく言えないんだけど、その薄い唇に彼女の意思の強さが現れていると思った。きっと彼女は一人で抱え込むタイプなんだろうな。直感だけど。何かに耐えている。私はそう感じた。折れないように押し潰されないように彼女は一人じっと耐えているんだと。
 だからかな、私と彼女はきっと同類なんだと思った。直感だけど。うまく言えないんだけど、同じ所をぐるぐるぐるぐる回ってお互い前に進めなくなっているんだと思った。だからこそ私は花衣と一緒に在てみようと思った。もう、私一人では前に進めない。私には友達もいる・家族も優しくしてくれる。だからあのこともいつか時間が解決してくれると信じていた。でも、私はただただ時間だけが流れていくのが苦痛でならなかった。いつまでこの「おままごと」をしなくてはいけないのだろうか。でも二人なら、花衣となら・・・。でも、それは結局 自分自身のためなの? こんな私の思いを知ったら彼女は悲しむだろうか。私を利用したのねって。一生恨まれるかもしれないな。いやいや、それよりは、あ、そうなのね、で終わるかもしれない。それがどうかしたの?って、キョトンとしてジッと見つめられるだけかもしれない。その方が彼女らしい気がする。だからこそ、彼女が背負っているものはなんなのか聞いてみたくなる。時々、自分のことを彼女に告白してしまいたい衝動にかられる。そして彼女の事を問いただしてみたくなる。聞いて!そして何があったの!って。でも、まだその時ではないのだ。ケータイの番号を教えることすら躊躇しているのだから。いっそ彼女の方から「ケータイの番号を教えてよ」って言ってこないかな。ま、無いだろうな。花衣ってほんとにそういうことに興味がないみたいだし。・・・まだまだ、と自分に言い聞かせている。

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